終活物語

気になる「墓じまい」の費用

両親を亡くした春子さんは独身のため、子供がいない。故に自分の代で墓じまいをしなければならないのだが、費用や方法などが全く分からず、両親の遺骨を前に悩んでいた。しかし納骨堂へ相談したことによって、予想外の選択が待っていたのだ。

 

千葉県に住む吉田春子さん(60代)は、両親の遺骨を前に頭を抱えていた。

両親ともに他界したのだが、父のお墓は山梨県にある。本人は生涯独身を貫こうと思っており、自分がいなくなった後のことを考えると墓じまいをした方が良いのではないかと悩んでいるのだ。

 

実家の墓を墓じまい?

自宅の仏壇の脇の小机に並んだ2つの骨壺を見ながら、私は思わず小さく唸る。

父は5年前に他界、母は今年他界したものの、二人ともまだ墓に納骨はぜずにいた。

父は長男で、実家は山梨県にある。山梨の寺院内に先祖代々の墓があるので、そこに2つ納めることができるのは知っている。しかし、私はどうしても決断できずにいる。

—このまま納骨しても、お墓参りに行くには遠いしなぁ。しかも自分は生涯独身のため、自分がいなくなったら墓守をする人もいない。そうなると、墓じまいをしたほうが良いのでは?

そんな思いが日々強くなる。

せっかく墓があっても、(今はまだ元気だから良いものの)、私が年を取れば墓参りへ行くことすら困難になるだろう。更に私は結婚する気もないので、その墓を守っていく人もいない。

—どうすれば良いのかしら・・・

一人で考えても答えが出ないので、久しぶりに東京に住む父の弟、つまり叔父に相談することにした。

すると、意外にも叔父は墓じまいに賛成だと言うのだ。

「墓を守っていくことが難しいのであれば、墓じまいも仕方がないよなぁ。都内なら自分もお参りしやすいし、良いと思うけど。春子ちゃんの好きにしぃ」

「え、叔父様本当に?本当にいいの?」

「あぁ、僕は構わんよ。しかし墓じまいをするにしてもお金もかかるし、僕にとっては両親のお墓でもあるから、多少お金は出すよ」

「叔父さん、ありがとう・・・」

叔父からの後押しを受け、私は墓じまいの準備に取り掛かることにした。

 

遺骨の移動先は納骨堂が良い?

叔父と電話で話した翌週末。

早速都内の霊園事情と、墓じまいの情報をネットで調べてみることにした。しかし、あまりの値段の高さに驚いてしまった。

「え!?こ、こんなにかかるの…??」

お墓を購入するのに最低でも300万円以上。そんなにもかかるとは思わなかったので、予想外の値段に目が点になる。

だが、比較サイトにあった一つの項目で手が止まる。

「あれ?これならいけるかも…?」

そのサイトは金額も比較提示されていたのだが、かろうじて納骨堂なら予算内でいけそうだ。

しかも納骨堂は、“継ぐ人がいなくても購入可”としているところが多く、おひとりさまの自分 にとっては何とも好都合である。

早速チラシに入ってくる機械式の納骨堂の見学をすることにする。幸い、千葉方面からアクセスが比較的良い上野から浅草あたりに、機械式の納骨堂が数件ある。せっかくなので東京へ行くついでに、数件回ってみることにした。

「如何でしょうか?」

ニコニコと笑顔で案内してくれる係りの方の問いに、こちらも笑顔で答える。

「合理的で利便性が高いわね。草むしりもいらないし、暑さ寒さも関係なくお参りできるのも良いわ」

「それは良かったです!最近は納骨堂を選ばれる方も多いんですよ」

けれども、どうしてだろうか。係りの方の丁寧な説明に恐縮しながらも、心の中でとあることが浮かぶ。

それは“数件まわったけれど、どこも同じに見えた”ということだった。言い換えるならば、あまり“ピン”とこなかったのだ。

加えて、墓じまい費用のことも気になる。調べてみると、更地にする費用だけでもなんと数十万かかるという。

仮に墓じまいをするのに、1㎡あたり8~25万円ほどかかるとして、5㎡ほどある区画なので、(きちんと見積もりをしないとわからないが)50万円ほどは想定しておくべきだろう。

さらに墓地を更地にするときの閉眼供養、新しい墓地に納骨する際の納骨法要に3~5万円ず包むとして6~10万円。それに加えて離檀料と称されるお布施もかかる。これは10万円ほどになるだろうか…。

これらの費用について、叔父がどこまで援助してくれるのか、多ければラッキーくらいの気持ちでいないと、後で苦しくなるのは自分だ。

「ちょっと待って、さすがにこれは費用が嵩みすぎるわ・・・」

計算するだけで途方に暮れてきた。

しかし、墓じまいを諦めるわけにはいかない。念のため、山梨の寺の住職にも相談してみることにした。

「こちらの寺に納骨したとしても、今後、墓守ができなくなる可能性が高いんです。私が元気なうちに墓じまいをして、両親と先祖の遺骨を都内の墓に納骨したいと思っているのですが」

反対されるかな?と恐る恐る申し出たのだが、住職の反応は予想外なほど、アッサリとしていた。

「最近、墓じまいを検討する人が増えているんですよね。まぁこういう時代だから、それもいたしかたのないことです」

住職も慣れている様子だ。それほどまで、墓じまいの相談が多いのだろう。

 

墓じまいをしない、という選択

しかしそんな住職の口から、新たな提案があった。

「墓じまいをせず、このままこのお墓を守り続けていくというのはどうでしょうか?10年分、20年分等の管理費をあらかじめ納めておけば、その期間は寺が守りますので」

「え?そんなことができるんですか??」

寝耳に水である。更に住職は、付け加える。

「はい。さらにその後については、墓じまい費用として相当費用を納めておけば、墓じまいまで行い、遺骨は新しく建てられた永代供養墓にお納め致します」

なんと良い提案なのだろうか。

これなら墓じまいをして、新しい墓を探すよりも安くつく。しかも自分もこの墓に入ることができるのだから、できればこのまま残しておいた方が良いような気もする。

「何よりも、故郷に帰ったつもりで、ときどき遊びにきてください」

最後の一言に、胸がじんわりと温まる。

こんな言葉を掛けてくれた住職の人柄にも心惹かれ、私は決意したのだ。

—2カ月後—

私は両親の遺骨を持って、山梨県にいた。

納骨をすませ、墓石には、新しく二人の戒名と自分の戒名を彫った。自分の戒名は、先日住職よりいただいたものだ。自分の戒名の部分だけは、朱色になっている。将来、私がここに入るときには朱色を抜くそうだ。

「田舎の墓を墓じまいする」

そんなふうに世間では言われているが、“墓じまいをしない”という選択があっても良いと思う。現に私は、この選択をとても気に入っているから。

文:三浦 マキ / 監修:吉川 美津子

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