終活物語

お墓の「名義変更」は可能か

嫁姑問題で悩んでいる洋子さん(55歳)。姑もまだ元気だが、双方“一緒のお墓には入りたくない”と主張している。そんな中、亡くなった夫のお墓でさらにもめてしまう。そこで洋子さんが出した結論は、“名義を息子に移すこと”だった…

 

田中洋子さん(55歳)は2年前に夫を亡くし、先日3回忌法要を終えた。

10年前に夫の父が亡くなったときに墓を購入したため、夫もその墓に入る予定だが、洋子さんは、そのお墓には入るつもりはない。

なぜならば、夫の母である姑と犬猿の仲だからだ。

「姑が入るお墓には、絶対一緒に入りたくないんです」

そう主張する洋子さん。一方の 姑も洋子さんが墓に入ることを嫌がっている。

嫁姑問題で悩む洋子さんの墓選びとは・・・?

 

嫁姑問題、勃発。

「姑との関係性が悪化したのは、同居して間も無くのことでした」

夫である健一郎さんと恋愛結婚をし、新婚当初は幸せな気分に包まれていた洋子さん。しかし結婚して3年後、マイホーム購入と同時に健一郎さんの両親と同居することになった時から、洋子さんと姑の歯車が狂い始めたという。

「なんでしょうね。とにかくウマが合わないんです」

同居をしてすぐに 、嫁姑関係は悪化。

夫の父である舅との関係は良好だったので、かろうじて同居はし、舅の介護もしてきたものの、10年前に舅が死去したことで事態は大きく変わる。

「さすがに私と姑が一緒に住むことはできなくて。舅の死去を機に、姑とは別居をすることになりました」

健一郎さんは洋子さんと姑の家を行ったり来たりする生活をしていたが、8年前に脳卒中で倒れ、2年前に亡くなってしまった 。

そして唯一のかすがいでもあった健一郎さんが亡くなったことによって、姑との溝は更に深まってしまった。

そんな悪化の一途を辿る関係だが、洋子さんはどうしても納得のいっていないことがある。

「夫の遺骨は、現在姑の元にあるんです。しかも姑はさっさと納骨日を決め、石材店等に連絡をして、勝手に話を進めていて・・・妻である自分を差し置いて、姑が段取りを進めてしまうなんて酷すぎませんか?」

姑への不満は山のようにあるようだ。

しかし洋子さんように、遺骨の所有をめぐってのトラブルは多い。特に嫁姑間、きょうだい間で互いに主張するケースはよくある。

現在遺骨を所有している姑が遺骨の所有者となるのか、喪主であり外見上は祭祀承継者である妻が所有者となるのか、実は法律で明確になっていないため、過去には同じような事例で裁判になったケースもあるほど。

頭を抱えていた洋子さんだが、更に不満が爆発する事態が起こる。

なんと、納骨の段取りが勝手に決まっていたのだ。

「私と長男、長男、長女で納骨法要に参加したのですが・・・最初は、舅の遺骨だけだと思っていたんです。でも驚くべきことに、何と他に2つ、骨壺があったんです」

これにはさすがにショックを隠せなかった洋子さん。しかも姑に問い詰めると、あたかも当然の如くこう言い放たられたという。

—仙台の親戚が墓じまいをしたので、こっちに納骨してあげたのよ、と。

さすがにこれには洋子さんだけではなく、長男が腹を立てた。

いずれはこの墓は長男が継ぐことになる。その長男に知らせずに、親戚の遺骨を納骨するとはそういうことなのだろうか。

「相談されてダメだとは言わないと思うけれど、どこの親戚で、なぜこちらの墓を利用したいのか。ひとこと言ってくれても良いですよね?」

普段は温厚な長男だが、この時ばかりは憤っていた。しかしそれは無理もない。その仙台の親戚には、会ったこともないのだ。

「ご家族の合意があったのだとばかり思っておりました。こちらももう少し昌美さん(姑)と話し合っておけばよかったのですが・・・」

そう申し訳なさそうに言う住職を横目に、洋子さん達は考えた。今後どうすべきか、と。

そして長男が出した答えは、「名義を自分に移す」ことだった。

 

お墓の名義変更

しかしお墓の名義変更をしようと決意したものの、洋子さんも長男も、最初からつまずくことになる。

実はお墓の名義変更は、簡単なようで相当難しいからだ。

民法では遺骨や墳墓などは祭祀となるのでまた、祭祀承継者でない人への「名義貸」や「転貸」を防ぐ意味でも、多くの霊園では生前の名義変更は、よほどの理由がないと認められていないという。

「名義変更は“譲渡”という扱いになり、一般的にはお墓の使用権は生前に自由に譲渡することができないと理解されているそうなんです。でも、今回のようなケースはどうなるのでしょうか?姑の勝手な振る舞いが、許せないんです!」

洋子さんも、思わず熱くなる。

一人ではどうすることもできないため、洋子さんは専門家に相談したそうだ。

「一応、抜け道はありまして。お墓を守り続けていくことが難しい、跡取りがいない、等の理由で、お墓の存続が難しくなった今、親族間であることや、譲渡人と譲受人の合意、その他必要書類を揃える等の条件付きで生前譲渡を認めていることもあるそうです」

長男は、「自分が墓地使用者(名義人)になっておけば、今後勝手な納骨はさせないし、父も弔っていくことができる」と言っているそうだ。

また、姑は可愛い孫の話ならば耳を傾けるという。

長男の提案に対し、姑は生前譲渡乗り気だそうだ。

「お墓参りもつらくなってきたし、できればかず君(長男)にまかせようかしら、と姑は言っています。本当に、孫は可愛いみたいで・・・」

結局住職も、“生前譲渡は、あまり例がなかったが、昌美さん(姑)も年だし、長男に譲っても良いかも”と、快く手続きをしてくれたそうだ。

こうして名義が無事に長男にうつった田中家の墓。

洋子さんの気持ちは、少し楽になった。

文:三浦 マキ / 監修:吉川 美津子

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