終活物語

「樹木葬」の理想と現実

退職を機に時間ができた明彦さん(65歳)は、7年前に亡くなった父のお墓を探し始めた。当初はここ最近人気だという“樹木葬”に惹かれており、早速見学にも行ってみたのだが、そこには理想とは異なる現実が待ち受けていた。

           

東京在住の高田明彦さん(65歳)は今年退職を迎えたばかりであるが、退職を機に、7年前に亡くなった父のお墓を探している。

“忙しさ”を言い訳にしてきたけれど、時間に余裕ができたと同時にお墓に関して調べていくと、様々な種類があることがわかった。当初は“樹木葬”に惹かれていた明彦さんだが・・・??

 

退職をキッカケに。

「ねぇ明彦、お父さんのお墓のことなんだけど」

お尻を叩いてくれたのは、退職して間もなくしてかかってきた、一本の母からの電話だった。

自分でも、分かっている。ずっと頭の片隅にはあったもの、仕事をしていた時は仕事の忙しさを言い訳に、中々父の墓探しの時間を取れずにいたことを。

「そろそろお墓を決めたいのよね。自宅保管して、もうすぐ2年になるし…」

「そうだよなぁ。そろそろ本腰を入れて探し始めようと、僕も思っていたところだよ」

実は母が骨折で入院することになった際に、近くの寺院に父の遺骨を一時的に預かってもらっていたのだが、一旦預かってもらうと安心してしまい、(正直に言うと)しばらくお墓のことは頭の中から抜けていたことは否めない。

「例えばだけど、今預かって貰っている寺院内の墓地とかどうかしら?」

「うーん、母さんにとっては良いかもしれないけれども…」

母も、もう良い年齢である。今は母に会うために行くけれど、母がいなくなったら栃木へは足が遠のく気がしている。

母は寂しそうではあるが、これからのことを考えると、参拝に行くのは自分の役目だし、遠い栃木よりも都市部に近い墓地を求めたほうが良いような気がしていた。

「ちょっと、僕の方でも探してみるよ」

こう言って電話を切り、実際に都市部から比較的近いエリアでの墓地を検討することにした。予算はトータルで150万円程度だ。

早速インターネットで検索をかけ、墓地の使用料と墓石セットで150万円以内で購入できるところを探してみる。しかしこの予算だと0.5㎡程度の小さい区画になるか、都心から1時間以上でさらに公共の交通の便が悪い場所しかない。

「結構かかるんだなぁ・・・」

“お墓はお金がかかる”とは聞いていたが、マンションのように墓地の値段も、都市部に近づけば近づくほど、値段が上がるようだ。

「となると、樹木葬はどうだろうか?」

実は最近、気になっているお墓がある。それは“樹木葬”という形の墓地だ。

墓石の代わりに樹木をシンボルとする墓地で、割安感があって人気があると聞いたことがある。新聞折込チラシもたくさん入ってくるので、一度見学に行きたいと思っていたのだ。

 

樹木葬の理想と現実

早速連絡を入れ、見学へ行ってみることにした。そこは寺院の境内の中にあり、右手に一般の檀家用の墓地、その奥に「樹木葬」と称される墓地がある。

しかし、中に入ってみると全くイメージと違ったのだ。

僕の中での樹木葬のイメージは費用が安く、墓石は不要。ゆったりとしたスペースで、自然に抱かれ、最後に遺骨は土に還る….といった心がゆったりとできるような、安らげるイメージがあった。

ところが、実際はビルに囲まれた都心のど真ん中にお墓がある。加えて境内の奥の方にある狭いエリアが樹木葬で、全く“ゆったりとしたスペース”ではない。“遺骨は土に還る”と思っていたのに、骨壺を使って納骨するため、契約期間が過ぎたら取り出して合葬するという。

しかも大きな墓石は必要ないが、墓標になる墓石は必要で、1人分は安いものの、2人、3人分となると高くつく….というのが現実だった。

「全然イメージと違うじゃないか!!」

あまりにもイメージと乖離しており、樹木葬は却下することにした。(後から聞いたところによると、都市部にある樹木葬は、他もあまり大差ないという)。

しかし、樹木葬の墓地を見学に行ったことによる収穫もあった。

“やはりお墓参りしやすい都市部の方が良い”と確信したと同時に、納骨堂の情報を得られたことだ。

 

“納骨堂”という選択

実は樹木葬墓地を見学した時に案内してくれた石材店から、最近の墓地事情を聞き、都市部では納骨堂が人気であるという情報をゲットできたのだ。

早速家へ戻り、インターネットで次は“納骨堂”を検索してみる。しかし、その数に驚いてしまった。

「こんなにもあるのかぁ〜」

自動搬送式の納骨堂のチラシがたくさん入ってくるとは思っていたが、ネットで調べると、都内だけでなんと20カ所以上もある。

色々と比較検討してみた結果、その中から折り込みチラシに入ってくる、下町の納骨堂の見学に行ってみることにした。

オープンして2年ほどのその納骨堂は明るく開放的な内装で、お墓に来たことを感じさせない。

「機械で遺骨が運ばれてくるので、お墓参りも合理的ですが、それが嫌だという人も一定数います。ただ、最近は自動搬送式の納骨堂が増え、抵抗のある人が少なくなったような気がしますよ」

スタッフさんの説明に、思わず大きく頷く。何故ならば、僕自身もそこにはあまり抵抗がなかったからだ。しかも予算内でおさまり、母親も東京観光がてら連れ出しやすいエリアにある。

「母さん、納骨堂に決めようかと思うんだけれど」

そう母に伝えると、栃木から離れるのが嫌なのか、少し寂しそうな声をしていたが、実際に見学に行くと母の態度はコロッと変わった。

「明るくて良い所じゃない!どんなお墓であっても、自分が入る場所が決まるというのは、ちょっと安心するものね」

嬉しそうにする母を見て、僕自身もほっと胸を撫で下ろす。

そして偶然ではあるが、栃木の寺院と宗派が同じで、住職が顔見知りであることも後押しする大きな要因となった。

「これでようやく、親孝行ができたのかな」

今まで、父の遺骨を放置していたような後ろめたさがどこかにあった。だがきちんと供養する場所が決まり、父に対して最後の親孝行ができたような気がした。

文:三浦 マキ / 監修:吉川 美津子

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