終活物語

後継ぎがいない…「承継者不要のお墓」を探す

都内に暮している智子さん。生涯独身で、また両親共に既に亡くしている。昨年母が亡くなって以降お墓を探しているが、智子さんには子供がおらず、将来お墓の面倒を見てくれる人は誰もいない。そこで、“継承者不要”のお墓を探し始めたのだが…

    

都内に暮らし、独身の智子・54歳。5年前に父を、そして昨年には母を亡くし、現在納骨先を考え中だ。

納骨先のイメージはかなり明確で、すぐに希望通りのお墓が見つかると思っていた。しかし、いざ探し始めるとそうとはいかず・・・?

「きっと、すぐに見つかるはず」

父を亡くし、そして後を追うように母も亡くなってから、私はお墓に関して真剣に考え始めていた。

子供もいないし、お墓は私の代で終わる。甥っ子や姪っ子はいるものの、私が亡くなった後の

維持管理は期待でいない。

そうなると承継者不要の墓地を探したいと思っているが、実際にはどんなタイプの墓が良いのか熟考中だった。

「私は独りだからねぇ。どうしようかと、悩んでいるのよ」

仲の良い友人・直美に相談した所、彼女も悩んでいるようだ。

「独りの方が気楽でいいじゃない。私は今の旦那と一緒のお墓に入りたくなくて・・・。ところで、智子はどういった条件でお墓を探しているの?」

直美に聞かれ、私は少しだけ自慢げに答える。何故なら、もう具体的なイメージが湧いていたからだ。

「お墓参りは頻繁に行きたいから、自宅から30分以内で行ける距離がまず一つ。そして自分の場合はお墓を守る人がいないから、承継者不要の墓地を購入したいと思っているの。あと他の人と一緒の合同納骨は嫌だから、個別に納骨できるお墓が良いわね」

早口に条件を言うと、直美は驚いたような顔をしている。

「あ!あとできれば洋風で、明るい雰囲気の霊園が良いわね〜。そして最近風水に凝っているから、方角は自分の住居から南東あたりのエリア内が希望かな」

「け、結構条件が多いのね・・・。でも智子の場合、自宅の仏壇にもいつも綺麗なお花が供えられているし、“近くて参拝しやすい”、というのが大事よね」

直美の言葉に、私は大きく頷く。

「そうなのよ。私たちも歳を取っていくでしょ?その時に遠すぎると参拝へ行くのも億劫になっちゃうじゃない。そう考えると、私の場合は特定の宗旨・宗派にはこだわりがないから、納骨堂でも良いかぁと思っているのよ」

「納骨堂?」

「そう。ただ、家の仏壇にお参りするのとあまり変わらないような気がして少し抵抗もあるのよね」

「それもそうねぇ」

二人でお茶を飲みながら考える。

女同士が集うと、10代・20代の頃は恋愛の話しで持ちきりだった。それが30代になると家族の話になり、40代は健康の話になり、そして50代はお墓の話である。

「また決まったら教えてね」

そうして、直美とは別れたのだ。

 

予算問題勃発

直美と会ってから1週間後。

私は条件の合う立地から該当する霊園をピックアップし、資料請求をした。そしてその中から、実際に気になった霊園を幾つか見学してみることにしたのだ。

まず向かったのは、ターミナル駅から私鉄で10分ほどの小さなA霊園。

寺院内にはあるが、そのエリアは宗旨・宗派不問で販売されている。インターネットで調べると100万円を切る区画もあり、買えそうな感じがした。

ところが実際に行ってみると、安い区画はどこも完売状態に近く、しかも空いている区画は、墓石の費用まで合わせると軽く300万は超えてしまうものばかりという。

「100万円を切る区画があるというから来たのに・・・」

ガッカリしながら小言を言うと、担当の方が申し訳なさそうな顔をしながら教えてくれた。

「リーズナブルなお墓は、すぐに売れてしまうんです・・・」

私の方の予算は、150万円くらい。この値段では、お墓は買えないのだろうか?

 

立地問題

気を取りなおし、次はターミナル駅から30分ほど電車に乗り、駅からバスで3分の距離にあるB霊園へと足を運ぶことにした。

A霊園と比較して値段も安く、墓地使用料と墓石合わせても、なんとか150万円くらいでおさまる区画に空きがあるという。(もちろん、この予算では、0.5㎡以下の区画しか買えないし、石の種類も選べるわけではないが仕方がない)。

駅からは少し遠いが、車で行けば自宅から30分で到着しそうだ。

“次こそは!”。そんな思いで向かったのだが、実際に休日に車で行ってみると、道は大渋滞。駐車場は広いものの、近所にレジャー施設があるため、そこまでに行く道路が大渋滞するのだ。それに運転は、何歳までできるか分からない。

—将来、車に乗れなくなったときに電車とバスを乗り継いでいけるかしら・・・。

そうなると、ここは少し遠すぎた。

 

一体いつまでお墓を守っていける?

お墓探しが難航しているだけではなく、私は大前提の問題に直面し始めた。

—自分が死んだら誰が墓守をするのだろうか?継ぐ人がいないと、そもそも存続が難しいのかも?

新しくお墓を建てたとすると、自分の代以降は誰に託せばよいのだろうか。

ネットで検索してみると、「承継者がいなくなると、一定の手続きを経て遺骨は取り出され別の合葬タイプの墓に納骨される」という説明が多かった。また事前に契約をしておくことで、契約期間の年数は墓を管理・供養してくれるシステムをとっている霊園もあることわかった。

ただ、お墓のお手入れや掃除、お花のお供えなどは別途業者との契約が必要らしい。

—両親の遺骨は自分が守ればいいけれど、自分はどうなるのかしら・・・?

不安が大きくなり、墓探しは迷走する一方だった 。

 

“納骨堂”という選択肢

結局従来の墓は中々希望条件に合うものがなく、立地・予算などを考慮した結果、私は納骨堂への見学を決めた。

まず1軒目は、23区内にあるロッカー式の納骨堂だ。

ロッカーといっても、季節の花々が描かれているロッカーで、美しいデザインが特徴的だった。しかも写真で見る限りは明るい雰囲気で、予算内で納まるリーズナブルな価格。

しかし残念なことに空いている区画が上と下しかない。つまり、目線に位置するロッカーはすべて完売で、上は脚立を使用しないと遺骨どころか写真も置けず、下はかがまないとダメだった。

“さすがに無いなぁ”と心の中で却下ボタンを押す。

次に訪れたのは、棚式の納骨堂だ。

ターミナル駅から私鉄で10分ほど、駅からも徒歩5分。窓が大きく、洒落た外観の納骨堂である。遺骨は棚におさめられ、お参りする場所は直接遺骨に向かってではなく、その前にある参拝スペースでお参りするしくみで、雰囲気も良い。

しかし合葬と変わらないような気がして、こちらも却下した。

そして最後は、チラシで入ってくる自動搬送式の納骨堂へ行ってみた。

注意してチラシを見てみると、自動搬送式の納骨堂が都内あちらこちらにあることを知る。その中でも、風水のエリア内にある自動搬送式納骨堂にCとDに見学に行くことにした。

両者を比較してみると、Dの方が高級感はあるものの、その分値段も高い。

どちらにするか散々迷いながらも、ここは見栄をはらずにCにしよう かな・・・と迷っていた時だった。この質問に対する一言で、私は背中を押されたのだ。

「私が死んだら、誰に納骨をお願いしたら良いのでしょう」

担当の方に、そう訊ねると、心強い一言が返ってきたのだ。

「そういった問題を解決するために寺院があるんです」

Cのほうが庶民的な感じで寺院も気さくに対応してくれるそうだ。こうして、私は色々な条件を加味し、散々悩んでたくさん見学に行った結果、この納骨堂に決めたのだった。

文:三浦 マキ / 監修:吉川 美津子

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