終活物語

実家のお墓には入りたくない。現代の「嫁姑問題」

72歳の幸子が最近悩んでいるのは、“どこのお墓に入るか”。何故ならば、姑と同じお墓に入りたくない、という強い意志があるからだ。生前あまり関係性の良くなかった姑と、別のお墓に入ることは可能なのだろうか…?

       
今年で72歳になる幸子。夫は昨年享年79歳でがんのために亡くなったが、2人の間に48歳の息子・哲也がおり、可愛い孫も2人いる。

幸せで、順風満帆な人生。だが、最近幸子はとあることで悩んでいた。

夫は一人っ子のため、遺骨は先祖代々のお墓(寺院墓地)に納骨したが、幸子は内心では「自分はここに入りたくない」と思っている。かつて、夫の両親と同居していたが、嫁姑問題がこじれて別居したほど仲が悪かったのだ。

ぼんやりと考えていたお墓に関して、幸子は真剣に悩み始めたのだが・・・?

 

実家のお墓には入れないの?

私の実家は、四国にある。

その四国のお墓には両親のほか、兄二人が入っているが、そのお墓を追っているのは兄一家の長男だった。

前はそんなこと考えてもいなかったが、夫が亡くなってから、真剣に自分の入る墓について考え始めていた。なぜなら、私の中に、ある葛藤が生じ始めているからだ。

姑と一緒の墓に入るくらいなら、父や母、兄たちと一緒の墓に入りたい。

実はかつて夫の両親と同居していたのだが、姑との関係は最悪だった。今でも思い出す度に辛くなるようなことも多く、死んでまで姑と一緒にいたくはない。

そんな思い悩んでいた中、不意に実家の墓がある寺院の住職は、たまたま学生時代の友人だったことを思い出した。

早速住職に電話で“一緒のお墓に入ることはできるかどうか”と聞いてみることにしたのだが、住職からは期待はずれの答えが返ってきてしまったのだ。

「う〜ん、それは現在お墓の面倒を見ている、お兄様の息子次第かな」

兄の息子には、さすがの私もちょっと聞きにくいし、そこまで図々しくもなれない。

「実家のお墓に入ることは無理そうね・・・」

住職の言葉を聞きながら、私は焦り始めていた。

 

納骨堂との出会い

そんな中、友人・春子とお茶をしていると良いことを小耳に挟んだのだ。春子は若い時に離婚しているのだが、最近『納骨堂』と出会い、お墓の選択肢が増えたという。

「納骨堂・・・?なぁにそれ?」

ぽかんとする私に、春子は畳み掛ける。

「知らないの?最近増えてきているお墓の種類の一種よ。費用も抑えられるし、一人でも入れるからいいのよね〜」

その時は“へぇ、そんな物があるのね”程度で終わっていたが、たまたま乗った電車の広告で“納骨堂”の文字が目に留まったのだ。

ピンと来た私はそのまま電車を降り、早速見学予約を入れてみた。

そして実際に足を運んでみると、たしかに春子の言っていたように綺麗で、しかも女性らしい雰囲気だ。これなら子供も気軽にお参りできそうだし、永代供養してくれるので墓守という負担もなさそうである。

「あら、いいじゃない」

すっかり気に入り、早速その晩長男の哲也に電話したのだった。

 

長男・哲也の反対

「あ、もしもし哲也。前から話そうと思っていたんだけどね、かあさん、先祖代々のお墓には入りたくないから、『納骨堂』へ自分一人で入ろうと思うのよ。どう思う?」

嬉々としながら電話をしながら、哲也の返答は、“そうなんだ”とか、“いいんじゃない”などのような物だと思っていた。

だが、想像とは全く異なり、意外なことに哲也は反対してきたのだ。

「父さんと母さんの墓が別々なんて、そもそも合理的ではないよ。お墓参りも2か所行かなくてはいけないし。それに、法要はどうするの?お盆、お彼岸は?」

哲也に早口で追及され、何も答えられなくなる。

「そもそも、父と母のお墓が別なんて聞いたことがないよ。子供達にもどう説明すればいいか分からないし・・・かあさんは良いかもしれないけれど、残されて墓を見る僕たちはモヤモヤ感が残るだけだから、僕は反対だね」

予想外の長男の反対。せっかく見つけた『納骨堂』という選択肢は、儚い夢となって消えてしまいそうだ。そしてこのままだと、姑のいる先祖代々のお墓に入ることが濃厚になってしまう。

そんなモヤモヤを抱えたまま、まもなくお彼岸を迎える。

 

今だにどうしたら良いか、答えがみつからない

今年も寺院のお彼岸法要に参列する予定だが、気の重い自分がいる。

息子とっては“優しいおばあちゃん”だった姑。

そんな可愛がられていた彼にはわからないかもしれないが、姑とは自分たちにしかわからないイザコザがあり、亡くなったからといってそう簡単に忘れられるものではない。

「やっぱり、姑のいるお墓には入りたくないわ」

昔を思い出し、私は小さな声で一人で呟く。

納骨堂に断りを入れものの、“ご心配、ご不安なことがあれば、いつでもご連絡ください”という優しいスタッフさんとは、今ではお墓の相談をする関係になっていた。

—自分のお墓は、自分で決める。

適当な答えがみつからないものの、自分の中ではやはり納骨堂が最も魅力的に映る。

だから今度のお彼岸で、今一度長男を説得しようと私は密かに決めているのだった。最後くらい、ワガママでもいいだろう、と思いながら。

文:三浦 マキ / 監修:吉川 美津子

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