終活物語

「海洋散骨」散骨クルーズ体験

都内在住のりつ子さんは30年前に離婚しており、現在は独身。二人のお子さんがいるものの、自身の病気をキッカケに「終活」を意識し始めた。そんな最中、今話題の“散骨”が気になり始め、散骨クルーズ体験に参加してみたのだが…

       
都内に暮らすりつ子・70歳。夫とは30年前に離婚し、50代の長男・健一郎と40代の長女・佳子がいる。

2年前にガンになったことがキッカケで「終活」が気になり始め、セミナーへ行ったり、葬儀会館の見学に行ったりしているが、お墓は不要派。最近ではテレビや週刊誌で話題になっている散骨が気になっているが・・・?

 

お墓って必要ですか?

「母さん、これ何?」

食事の片付けをしていると、ちょうど孫を連れて遊びに来ていた健一郎が、前回参加した“終活セミナー”の冊子を手に台所へやってきた。

「母さんもいい歳だし、色々と自分で調べているのよ。今はお墓にも色々な種類があるということ、知ってる?」

2年前に癌を患って以来どう自分の人生を終わらせるのか、“終活”に興味を持ち始めた私。お陰様で今は完治し、容態は安定しているものの、いつ、何があるかは分からない。

「でもさ、母さんの家の方のお墓があるでしょ?」

「あちらはちょっと、ね・・・」

お墓参りへはよく行っているものの、

実家の兄が先祖代々の墓を継いでいるため、一旦は嫁に出た自分は入りにくい感じである。長い目でみたら兄の子供達に法要等をお願いするのは気が引ける。

それに夫婦なら「一緒にお墓へ入ろう」という気にもなるのだろうが、離婚しているのでそれもない。

「将来僕たちが入るお墓も必要だし、そこに一緒に入るとか?」

「貴方達には、あまり迷惑をかけたくないのよ・・・」

そう言いながらも、つい口ごもる。

健一郎の家族たちと入るお墓といっても、ここだけの話、彼の嫁とあまりうまくいっていない。

一緒に入るのも嫌がりそうだし、そもそも私が亡くなった後、あのお嫁さんが積極的に墓の掃除などをしてくれる姿が想像できないのだ。

「そうかぁ・・・ちょっと僕の方でも考えてみるよ」

そう言われたものの、正直期待はしていなかった。しかし、健一郎は一ヶ月後に見事に見つけてきてくれたのだ。

 

散骨クルーズ初体験

健一郎がインターネットで見つけてきてくれたのは、「散骨クルーズの体験」という、東京湾羽田沖あたりで散骨するプランだった。

「午前10時に出航して2時間のクルーズ?面白そうね」

「でしょ?一度行ってみない?」

こうして、私は興味本位で散骨クルーズに参加した。

しかし、私はこのクルーズに来たことをすぐに後悔することになる。

当日、天気は良いものの風が非常に強い日で、船は揺れに揺れた。もちろん、30分も経たないうちに吐き気をもよおしてきた。とにかく船酔いと戦うことに必死で、他のことはほとんど覚えていない。ただ、時間が過ぎるのを待つだけだった。

「母さん、大丈夫!?」

「これは想像と違うわ・・・」

泣きたい気分で一杯だった。

結局、散骨体験クルーズは散々な思いで終わってしまったのだが、私は悟ったのだ。

—“散骨は向いていないかも”、と。

よく考えれば、海に縁があるわけでもなく、さほど海に対して思い入れがあるわけでもない。私のお墓探しは、こうしてまた振り出しに戻ってしまった。

散骨クルーズへ行って以降、健一郎も乗り気になり、一緒にお墓探しをしてくれることになった。

「妻といろいろ話し合ったんだけどさ。自分たちが入る墓を探して、そこに母さんを入れてあげるよ。どうかな?」

健一郎は、昔から優しい子だった。長男らしく責任感が強い所もあり、立派な息子になったことを感謝している。

「え?でもいいの・・・?」

健一郎の嫁とうまくいっていなことを気にしていたが、私が思っているより向こうはサバサバとしており、あまり気にしていないようだ。それが良いのか悪いのかは分からないが、とりあえず健一郎のオファーに乗っかろう。

「ただね、僕たちの予算にも限りがあって。なるべく100万円以内で、しかも墓参りがしやすい都内でお墓を探したいと思っているんだ。」

健一郎の言葉に、“もちろんよ”と大きく頷く。でも、それと同時に不安な気持ちも大きくなる。終活に興味を持ち始めて色々と探していたが、外墓がどれほど高いか、そして都内に行けば行くほど値段がつりあがっていくことを知っていたから。

 

納骨堂との出会い

だがそんな不安な私をよそに、健一郎がまた新たな朗報を届けてくれた。

「母さん、納骨堂って知ってる?都心にありながらも価格が安く、僕たちの希望条件にピッタリかもしれないんだよ」

最近、テレビのワイドショーなどで取り上げられている自動搬送式納骨堂。テレビで見たことはあるが、実際にはあまりよくわかっていない。

「見てみる価値はありそうだわ」

早速資料を取り寄せ、文京区、新宿区、目黒区、港区の納骨堂に見学へ行くことになった。どこも施設がキレイで合理的なシステムで、思わず“あら”と唸ってしまった。

孫たちも参拝しやすそうだ。綺麗で窓も大きく開放感があり、想像していたようなイメージとは異なっていた。

「お洒落で、明るいのね!」

思わず笑顔になる。さらに、珍しく一緒についてきた健一郎のお嫁さんも大層気に入っているようだ。

「お義母様、ここだとお墓参りにも来たくなりますね!」

そして健一郎は、もう一つ別の理由でここが気に入ったようだ。

「納骨前でも、購入時から管理費がかかるのは他と同じかもしれない。でも立派な本堂もあるし、ぜひこれをご縁にお参りに訪れたいなぁ。母さんのガンが再発しないとも限らないし・・・心穏やかに過ごせる場所として、お寺とお付き合いできたらいいなとちょうど考えていたんだよね」

健一郎の言葉に、家族皆が黙って頷く。

元気でいるとつい忘れがちだけれども、何でもない今日という1日は特別な1日で、日々感謝の気持ちを忘れずに生きなければいけないことを思い出させてくれた気がした。

 

—あれから半年。

健一郎は、寺院の行事等に度々訪れてお参りしているようだ。

文:三浦 マキ / 監修:吉川 美津子

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