終活物語

「都内」で墓をどうやって探す?

ある日、父親が亡くなった。残された家族で慌てて墓探しをしてみるものの、“そもそも何をすればいいのか分からない”という初歩的な問題でぶつかってしまう。しかも子供達は都内在住で近場を希望…など、様々な問題が浮き彫りになっていく。

      
八王子在住の男性が亡くなった。享年85歳。残されたのは、妻であり、喪主を務めるたえ子と息子の修(おさむ)夫婦、そして娘のよし子夫婦。

悲しみに暮れる中、残された家族で墓探しが始まったのだが・・・

 

どうやって、都内で墓を探す?

「母さん、お墓はどうするの?」

父が亡くなってから悲しみに暮れる間もなく、僕たち家族はある大きな問題にぶつかった。お墓問題だ。
もっと、遠い話だと思っていた。自分にはまだ無関係だと思っていた墓探し。しかし実際に父が亡くなった今、急に現実味を帯びてきた。

悲しみは残るものの、早めに探さなければならない。

「この機会に、近くで探すというのはどうかな?」
都内だと妹よし子夫婦も近いし、僕の家も都内だ。母も八王子在住なので、皆にとって好都合な気がする。

「そうね、あなた達のことを考えると検討すべきかしら・・・」

母が重い腰を上げたこともあり、家族で話し合った結果、宗旨・宗派は真言宗だがそこはあまりこだわらず、場所は都内で墓参りしやすい所。そして将来は僕たち息子夫婦も入れて、予算は200万くらいに収める、というのが絶対条件となった。

 
— 墓、東京
翌日、僕は早速都内で墓探しを始めてみた。しかしあまりにもその多い数に、思わずため息が漏れる。

とりあえず墓地情報ポータルサイトで『東京』にチェックを入れて検索し、検索結果の上位5~10個くらいで適当な墓地の資料を集めようと試みるものの、こだわり条件のチェック項目も多くてよく分からない。四苦八苦しながら資料請求をしてみたが、数日後に複数社の石材店から大量の資料が送られてきた。

「どうやって選べばいいんだよ・・・」

僕はその莫大な資料を前に立ち尽くす。しかも資料だけではない。連日かかってくる営業電話に、若干辟易する。

そんな中、丁寧に説明してくれたK社から「とりあえず霊園見学にいらっしゃいませんか?」という誘いがあり、実際に一度、霊園に足を運んでみることにしたのだ。

 

都内真言宗の墓地見学

「こちらが霊園になります。弊社としてはお亡くなりになられたご家族の皆様が安らかに・・・・」
一生懸命係りの方が説明してくれるものの、0.3㎡程度の小さい区画でも、墓地使用料と墓石費用等を合算すると、300万円程度もする。予算オーバーな上、どうも寺の住職とウマが合わず、僕は少し肩を落としながら霊園を後にした。

「母さん、あそこはちょっと違うかもなぁ」

早速再び母と妹のよし子に連絡をする。すると、母からは新たな提案が飛び出したのだ。
「それなら、私の家の近くの八王子はどう?」

「なるほどね。そっちの方向でも探してみるよ」

結局、僕は八王子の民間霊園も見学することになった。実際に足を運んでみると雰囲気も良く、なんと宗旨宗派不問で、広めの区画。総費用も200万円以内でおさまりそうで、僕は早速家族に報告をしてみる。

しかしここにきて、妹・よし子の反対に遭ってしまったのだ。
「母さんが亡くなった後はどうするの?今はいいけれど、八王子までわざわざお墓参りに行くのは億劫よ。もし同じ値段で同じ広さなら、千葉が良い!」

「そんなこと言われても困るよ。千葉はこちらからだと遠すぎる!」
結局、この話し合いは平行線を辿るばかり。そんな時のことだった。不意に、よし子がある一枚のチラシを持ってきたのだ。

「これね、お正月に八王子の実家に新聞の折り込み広告で入っていたんだけど・・・」
そう言ってよし子が差し出したチラシには「ゆめみどう」と書いてある。麻布十番にある納骨堂だった。

「納骨堂、かぁ。しかもこれだと予算内だな」
三人で顔を合わせ、僕たちは早速見学予約をした。

 

麻布十番の納骨堂を見学

日曜日、僕たちは麻布十番の駅へ降り立った。都会の中心にありながら、石畳の商店街には昔ながらのおもちゃ屋や、たい焼き屋などどこか懐かしさも覚える。

駅から徒歩5分という好立地にある「ゆめみどう」。その建物に一歩踏み入れた途端、思わず僕たちは感嘆の声を漏らしてしまった。

「わぁ〜明るくて綺麗!」

「すごく綺麗ね、ここ。大きな窓から差し込む光も素敵だわ」

最初は納骨堂というスタイルに対して不安の声を漏らしていた母だが、すっかり気に入っている。しかも係りの方も非常に丁寧で、参拝方法や墓石の説明などを聞き、益々納得の様子だ。

「母さん、ここだと私たち子供だけでなく、孫もいつでも参拝に来れるわよ!価格も外墓に比べると安いし、室内だから天候も関係なくお参りすることができるから安心だわ」

よし子の発言に、母がふふっと笑う。

「そうね・・・お墓の面倒を見てくれるのは、あなた達ですもんね。私も、ここ気に入ったわ。お父さんもきっと喜ぶでしょうね。」
こうして何度か話し合いを重ねた結果、都心にあるのに価格もグンと抑えられ、 綺麗で安心・安全な「ゆめみどう」に決めたのだ。

 

納骨に至るまで。

「それでは、納骨は来週の2日に行いましょう」

父は無口だったが、優しくて暖かい人だった。父と過ごした日々を思い出しながら、母と僕たち夫婦に子供二人、そして妹夫婦と姪っ子で納骨に立ち会う。

正直に言うと、最初は外墓ばかりに目を向けており、納骨堂という選択肢が入っていなかった。

しかしこうしてゆめみどうの「龍澤寺」の住職にお経をあげてもらい、無事に納骨が済むと、ここに決めて本当に良かったと改めて思う。遠くの外墓より、近くの納骨堂だ。これで僕たちも母も妹も、いつでも参拝に来ることができる。

納骨が終わり、暖かな光が差し込む室内で僕たち家族は向かい合った。

「お父さんも、喜んでいるわね」

母の言葉に、皆で大きく頷いた。そして僕と妹は、こっそり目を合わせて誓い合う 。“父さん、すぐにお参りに来るからね”、と。

文:三浦 マキ / 監修:吉川 美津子

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