終活物語

「墓じまい」ってどうするの?

都内に住む京子さんは一人っ子のため、現在墓じまいを検討している。だが簡単にできるかと思っていた墓じまいは案外手続きが難しく、また調べていくうちに色々な方法があることを知る。果たして、京子さんが最終的に選んだ墓じまいの方法とは?

   

都内に住む京子・60歳。

父は5年前、母は3年前に他界し、遺骨は群馬にある先祖代々の墓に納骨されている。

一人っ子のため、将来の墓守がいなくなることが不安で、自分の代で「墓じまい」することを検討しているが、それは想像以上に難しいことだったのだ・・・

 

「墓じまい」ってどうするの?

実家のあった群馬の墓は、地域で管理している共同墓地。そこに明治以降、父母、祖父母のほか、数名の遺骨が入っているらしいけれど、私自身は先祖の名前は把握していない。

その上、土葬だったこともあって骨壺も残っていない。

「お墓、どうすれば良いのかしら・・・」

一人っ子のため相談できる兄弟もおらず、しかも何から手をつけたら良いのか分からなくなったため、とりあえずインターネットに「群馬 墓じまい」と入れて検索してみることにした。

すると群馬県内で墓じまいの相談にのってくれるという業者が幾つかヒットし、早速電話をして 事情を説明してみる。しかし“現在納骨されている遺骨をどうしたいのか”と意向を聞かれ、返答に困る。

「え〜っと、どうすれば良いのでしょうか?」

自分の意向もよく分からない始末で、むしろ業者の方も困惑気味だ。

「遺骨の行先、つまり改葬先を決めることが先決ではないでしょうか」

そう優しく悟られるものの、改葬先といっても、跡継ぎがいないため改めてお墓を建てるつもりはない。途方に暮れていると、先方の方から新たな提案があった。

「永代供養墓などはいかがでしょうか?」

「永代供養墓・・・?」

「永代供養とは、お墓参りに行けない人に代わり、寺院や霊園が管理や供養をしてくれるシステムのことですよ。お墓のカタチはいろいろあり、納骨方法も個別に納骨するタイプと合葬するタイプがあるんです」

「そうなんですね。それは良さそう!合葬式で良いので、群馬県内にある永代供養墓に納めることはできますでしょうか?」

結局、親切なその業者さんは永代供養墓を持っている寺院を幾つか紹介してくれた。

 

永代供養墓は案外高額だった

しかし、早速私の期待は裏切られることになる。

“合葬”なので安いことを期待していたが、我が家の場合、父母と祖父母合わせて最低4名。さらに名前まで把握できていない遺骨を含めると、7~10名ほどの先祖の遺骨があると思われる。

基本的に永代供養墓は、1体(柱)に対しての費用になっていて、1体に対して7~15万円くらい。

1~2体(柱)ならともかく、これほどの人数になってしまうとかなり割高となってしまうのだ。

“名前が明らかでない遺骨の分は費用は応相談”とは言ってくれたものの、想像よりも高いし、これでは完全に予算オーバーだ。

「すみません、一旦、他の納骨方法も検討させて下さい・・・」

こうして、私は一度持ち帰って検討することにした。

 

樹木葬墓地

合葬なのに自分の想像より少し高かったことにショックを受けつつ、私は根気よくその他の方法の検索を続けていた。

すると、“樹木葬”という言葉が目に留まった。

最近、石の変わりに樹木をシンボルとする樹木葬墓地が話題になっているらしく、樹木葬墓地は群馬にも少しずつ増えているという。

「あら、これは良さそうね」

一人でパソコンに対して呟きつつ、早速資料を取り寄せてみた。

しかしこちらも合同葬と同様に、1体に対しての値段設定になっており、数名分の納骨となると普通の墓地が購入できてしまうくらい割高になる。

近隣の納骨堂も視野にいれたが、こちらもほとんどが1体いくらという値段設定。

複数名分の納骨となると、なかなか良い場所がみあたらない。

「墓じまいってこんなに大変なのね・・・」

何となく“大変どうだなぁ”と想像はしていたものの、ここまで難しいとは思っていなかった。

しかしそんな中、翌日の折り込みチラシで私は一筋の光を見つけたのだ。

 

都内の納骨堂、という新たな選択肢

そんな中、ふと新聞折り込みに入っていた都内の納骨堂のチラシが目に留まった。

機械式の納骨堂で、ファミリータイプもあると書いてある。これはつまり、数名分の納骨が可能ということだろうか?

不意に、心が軽くなる。これなら、いけるかもしれない。

気になって資料を取り寄せてみると、継ぐ人がいなくても購入できると書いており、ここなら改葬した遺骨だけでなく、自分が入ることを想定して購入できそうだ。

「あら、いいじゃない」

早速、私は山手線の東側にある機械式の納骨堂に見学の申し込みを入れた。そしてこの納骨堂以外にも幾つか資料を取り寄せ、複数箇所を見学してみることにしたのだ。

そこは私の想像よりずっと開放的で、綺麗だった。もっと閉塞的な感じかと思っていたのだがむしろその逆で、しかも室内なので雨風に当たる心配もない。

そして遺骨は全部で8体(柱)ほど入る。粉骨にするなどすれば、もう少し入るかもしれない。

「納骨堂、かぁ・・・いいわね」

結局、幾つか見学した後、私は自宅から一番近い場所を選んだ。

あと10年くらいすると、遠すぎると墓参りが辛くなるかもしれないという懸念があった。そして何よりも、墓参りはできるだけ楽にしたいという意図もあった。

全ての条件が合致し、私は納骨堂に決めたのだ。

 

墓じまい・改葬を経て

そこからは一気に話は進み、群馬のお墓の墓じまいをすることになった。

群馬と東京を行ったり来たりすることが難しいので、改葬に関する行政手続きは、業者に代行してもらうことにした。(ちなみに、名前がわからない遺骨は“不明”として改葬の申請をするそうだ)。

今まで墓じまいを考えていたものの、実際に執り行うとなると様々な手続きと時間を要する。

けれども父や母、そしてご先祖様達に関する大事なことだ。私は一つ一つの作業を、大事に行うと決めた。

遺骨を取り出し、墓石を撤去すると墓地は更地になった。そんな更地を見ると、心の中から湧き出るものがあった。

「今まで、ありがとうございました」

思わず、そう小さな声で呟いてしまった。

ちなみに、ここまでの費用で20万円弱。土葬遺骨はそのままでは納骨堂に納めることができないので再火葬し、骨壺に納められている遺骨は業者が洗骨という作業を行う。

そして現地の確認等を含めて群馬に行き、業者から遺骨を引き取るのだが、遺骨はそのまま納骨堂宛にゆうパックで送った。

「え?ゆ、ゆうパックで送れるんですか・・・!?」

業者の方から聞いた時は驚きのあまり何も言えなくなってしまったが、今は本当に便利な社会になったようだ。

そして遺骨は全部で骨壺の納められている父母と祖父母のほか、不明遺骨4体分と思われる計8体(柱)となった。

土葬の分は遺骨の量が多くないので、自分もこの納骨堂に入るスペースは十分ある。

8体分の改葬許可証を納骨堂に出し、納骨を済ませた。

—今まではあまりお墓参りに行くことができなかったけれど、今後はこまめに父母、先祖供養ないとね。

そう心に誓いながら、私は骨壷を納骨堂に納めたのだった。

文:三浦 マキ / 監修:吉川 美津子

関連記事

  1. 「都内」で墓をどうやって探す?

  2. 後継ぎがいない…「承継者不要のお墓」を探す

  3. 家族間で「違う宗教」どうやってお墓を探す?

  4. 「樹木葬」の理想と現実

  5. 「夫婦」で納得のお墓探し

  6. お墓の「名義変更」は可能か

ページ上部へ戻る