終活物語

「都立霊園」の抽選って倍率が高いの?

23区内に住む敦子さん(50歳)。5年ほど前に離婚し、現在は女手ひとつで二人のお子さんを育てている。そんな敦子さんの父は2年前に他界し、残された母と一緒に都内でお墓を探し始めた。最初は“都立霊園”が安くて良いかと思っていたのだが …

  

23区内に住む敦子・50歳。5年前に離婚し、現在は高校一年生の娘と中学二年生の息子と同居中だが、父が倒れ、母が一人暮らしになったこともあり、両親の住む西武新宿線の野方に引っ越してきた。

父は2年前に他界し、母とそろそろ納骨をしようかと考えていたが、お墓がまだ決められずにいるのだった。

 

都立霊園とは?

父の3回忌が過ぎ、私を取り巻く環境は少しずつ変わり始めていた。

離婚し、父が亡くなり、老いた母を一人にしておくのも心配で家族揃って引越。色々あったが何とか落ち着いてきた、という説明が正しいだろうか。

父の葬儀直後はどこから訃報を聞きつけたのか、お香典返し、仏壇店、石材店等からの営業が頻繁にあり、しつこい営業にうんざりして全て断っていた。しかし最近最近は少しだけ気持ちに余裕が出てきた気がする。

「ねぇ母さん。そろそろ、納骨のこと考えなくちゃね」

今年で80歳になる母。母も同じことを考えていたようで、二人でリビングの食卓でお茶を啜りながらどうしようかと考える。

そんな時、ふと食卓の上にあった都の広報誌に載っていた、「都立霊園使用者募集」に目が留まった。

「都立霊園、かぁ・・・」

都立とつくと安そうだし、私たちでも手を出せる金額かもしれない。

興味を持って詳しく見てみると、都立霊園の募集は毎年1回。告知は6月にあり、申し込みは7月、抽選が8月にあるらしい。ただ“かなり倍率が高い”と聞いた記憶もある。

「敦子、ここはどうかしら?昔、よく家族でお花見がてら散歩したわよね」

母が指差していたのは、都立霊園の小平霊園だった。そこだと実家から電車で1本だし、当選すれば立地は問題ない。

「そうね。お父さん、桜が好きだったからね」

父が元気だった頃、桜の名所でもある小平へよくお花見がてら散歩もしたことを思い出す。馴染みのある場所であるし、かなり良い。

しかし小さな文字で描かれている募集要項を読み、思わず二度見してしまった。

小平霊園の募集区画が1区画に対して150万円を超えていたのだ。

「た、高くない・・・!?」

ちなみに、青山墓地にもなると1区画で400万円を超えている。墓地の使用料だけでこの値段だったら、これに墓石を建てたら果たしていくらになるのだろうか。

「公営だからといって安いわけではないのね・・・」

“公営=安い”と勝手に思い込んでいたが、それはどうやら違うようだ。

しかし申し込みまで1か月ほどあるので、ダメ元で小平霊園の近くにある石材店に恐る恐る問い合わせてみることにした。

「あの、費用はおいくらくらいなのでしょうか?」

「都立霊園でしたら総額、意外にかかってしまうかもしれません。もし墓石の費用が気になるなら、芝生墓地を申し込むという手もありますよ!」

「芝生墓地、ですか?」

あまり聞きなれない墓地の名称に戸惑っている中、親切な係りの方はとても丁寧に、予算感を更に詳しく教えてくれた。

「ただ芝生墓地でも180万円するので、墓石と工事費等を合算すると、それに50万円~80万円程度は考えていたほうが良いかもしれません」

—それでも、そんなにかかるのね・・・。

しかし“芝生墓地”が気になりネットで調べてみると、まるで海外のお墓のようで広々として開放感があり、中々魅力的。しかもここならお墓参りにも行きやすそうだ。

しかも当選するかどうかもわからないので、私たちはとりあえず申し込んでみることにしたのだ。

 

もう少しリーズナブルなところはないの?

しかし安堵したのもつかの間、万が一小平霊園がダメだったときのことも考えておかなければいけない。

調べていくうちに色々と分かったのだが、落選しても再度申し込みはできるものの、落選回数が多い人が優先になるわけではないらしい。そんないつ当選するかどうかもわからない状況を、いつまでも待つわけにはいかない。

「どうしようかしらね。全く別方向から検討してみるのもありかしら?」

「そうねぇ。でも母さん的には、やっぱりそこまで遠くない所だと嬉しいわ」

“近い所かぁ”と頭で考えながら、一箇所脳裏に浮かぶ。

実は5年前に父が倒れてから、お墓についてなんとなく気を留めていたため、毎週金曜日に新聞折込チラシに入ってくる霊園チラシもよく見ていのだ。

しかし、最近の折りこみチラシはどうだろう。霊園よりも納骨堂のほうが圧倒的に多いような気がする。それは素人ながらにもわかるほどだった。

「最近の霊園も、住宅のように戸建てよりもマンションになっているのかしら?」

そして私は、納骨堂も候補へ入れることにした。

 

納骨堂見学

納骨堂も候補へ入れると決め、早速チラシに入ってくる納骨堂のうち、交通の便が良い3つに絞ってみた。

幸い、家から新宿へは電車で数駅だ。新宿周辺にはいくつか機械式の納骨堂があり、都立霊園の当落結果が出るまでとりあえず見学へ行ってみた。

3件とも近代的な建物で、荘厳な雰囲気で、カードをかざすと遺骨が目の前まで運ばれてきてお参りするスタイルも共通だった。有名建築家が携わっている納骨堂もあり、それぞれ甲乙つけがたい。そして建物や内装で料金設定が違う印象を受けた。つまり、自分たちの予算に合わせて選べるようだ。

「母さん、納骨堂、いいんじゃない?雨風も影響しないし綺麗だし、安らかに眠れる気がするんだけどなぁ」

私は納骨堂が大層気に入り、一人で興奮していたが、母は何か言いたげな顔をしている。

「どこも良いのだけれど、お父さんは質素な人だったから、この中から選ぶとしたら一番安いところで良いんじゃないかしら?正直、あまり違いは感じられなかったのよ」

母の一言に、ハッとなる。たしかに、どこも魅力的なのだけれど、「絶対にここが良い」と思うところはなかったのだ。

そうしてのんびりと探していたお墓だが、8月、都立霊園の抽選日では見事に落選してしまった。

芝生墓地に魅力を感じていただけに、母も私も肩を落とした。

 

石材店からの提案

すっかりしょげていると、以前相談に行った石材店から都立霊園の当落の確認の電話があった。

「残念ながら、落選してしまって」

素直にそう伝えると、彼は別の提案をしてきてくれたのだ。

「良かったら他の霊園見学に行ってみませんか?きっと気にいると思うんですよね」

そうして案内されたのは、所沢周辺の霊園だった。小平から少し奥には入るが、予算を考えると小平より都心寄りは難しいそうだ。

提案してもらった霊園は芝生墓地タイプで、値段も200万円以内でおさまる。しかし駅から遠く、気軽に足を運ぶというわけにはいかない距離のような気もする。

「母さん、どうかしら?」

「そうねぇ。駅からは少し遠いけれど、やっぱりお天道様が見えて、四季を感じられるよう、お墓は外の方が良いかなとも思うのよ。納骨堂も悪くはなかったけど、自分が入るところとしてこちらのほうが違和感がないのかなって」

母は芝生墓地を気に入ったようだ。

そういう私も、少しだけ画一的な納骨堂に少し違和感はあった。自分たちが見学にいった納骨堂は、墓石の形も色も隣と同じで、違うところは刻まれている家名くらい。荘厳だけれど閉鎖的なイメージもあり、やはり外のお墓と比べてしまうと暗い感じもしたのだ。

—もう少し開放的で明るくて、画一的でない納骨堂があればそこに決めるのになぁ。

そう思いつつ、結局、所沢の芝生墓地に決め、墓石には桜の色のような、淡いピンク系の石を使って建てることにした。

—お父さん、気に入ってくれるかな。

亡き父に思いを馳せつつ、私はそのピンク色をした墓石を見つめていた。

文:三浦 マキ / 監修:吉川 美津子

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