終活物語

「友人同士」で入れるお墓

特別養護老人ホームに入居していた古橋千代さん(83歳)が亡くなった。しかし彼女に身寄りはなく、看取ったのは職員の方だった。そんな中、身寄りのない彼女のお墓探しに立ち上がったのは、生前の友人の一人だった…

               

特別養護老人ホームに入居していた古橋千代さん(83歳)が亡くなった。

古橋さんは70代前半に認知症になり、4年前に特養に入居。3年前から歩行が困難になり、半年ほど前から急速にADLが低下。最近は誤嚥を繰り返すようになっていた。

ある日の夜、施設の職員が巡回にまわると、古橋さんはすでに呼吸停止の状態。病院に搬送され死亡が確認されたのだった。

そんな時、独身を貫いた彼女のために友人が立ち上がった。

 

身寄りのない友人の墓選び

「千代ちゃん 、生涯独身だったからねぇ…」

私の名前は、山田知子。古橋さんとは昔からの友人で、身寄りのない彼女のために週に一度は施設を訪問していた。

古橋さん…通称“千代ちゃん”は生涯独身で、「親戚とは若い頃のトラブルで、縁はない」と言っていた。

そのため認知症になってからも、成年後見人が身上監護や財産管理を行っていたのだ。

千代ちゃんの遺体は葬儀式場に安置され、ほどなくして火葬された。その火葬にも私は立ち会ったが、葬儀場で彼女との思い出が走馬灯のように蘇る。

元々千代ちゃんとは、生花の習い事が一緒だった。家も近く、頻繁にお茶をしたりお互いの家へ遊びに行ったりしていた仲だったが、千代ちゃんの認知症が進んでも、私のことは唯一“知ちゃん”と、 顔と名前を一致して認知してくれていた 。

亡くなる二カ月前くらいからは会話もできなくなったが、私が来ると嬉しそうにニコニコしてくれていた。施設の方も、“山田さんが来ると本当に嬉しそうで”と言ってくれていた、そんな間柄だった。

だが、私は親族でも何でもない。

結局千代ちゃんの遺骨は、一旦後見人の手に渡すことになった。けれどもこの後、遺骨はどうすれば良いのだろうか。個人的には、「丁重に弔ってあげたい」と考えているものの、頭を抱える。

私自身は一度結婚したことがあり、現在50代になる息子と娘がいる。千代ちゃんの死は悲しいが、自分のお墓を考える良いタイミングでもある気がした。

「そうだわ。千代ちゃんと一緒に入れるお墓なんて、あるかしら」

 

友墓

娘と息子も成人し、夫とは離婚している。私自身のお墓も考えなくてはいけないなぁ。そう思っていた矢先の出来事でもあった。

「ねぇ、母さんのお墓のことなんだけど」

年末に集った際に二人の子供に相談しようとするものの、二人共素っ気ない反応だ。

「僕はお墓のことはよくわからないなぁ。色々調べてみて、お母さんが良いと思うところがあったら、それを元に検討してみるよ」

「うん、私もお墓に関してはお母さんに任せるわよ」

日常生活に忙しいのか、二人共あまりお墓について興味がないようだ。結局自分自身で探すしかなく、一人で色々と考えてみるものの、友人同士なので“〇〇家の墓”として新たにお墓を建てるのも違うような気もする。

「こういう場合は、どうすれば良いのかしら…」

誰に相談すべきなのかも分からず悩んでいると、ふと新聞の合間に挟まっていた納骨堂のチラシが目に入った。

「納骨堂・・・」

名前は知っているものの、実態はよく分からない。そのため早速足を運んで、見学を兼ねてかかりの人に聞いてみると、友人同士でひとつの区画の購入も可能だという。しかも一定の使用期間が過ぎると、なんと合葬墓のほうに遺骨を取り出して移すため、継ぐ人がいなくてもOKだそうだ。

私には子供がいて継ぐ人がいないわけではないが、長男は長男・長女同士の結婚で、相手方の方に先祖代々のお墓がある。そのためそちらを継ぐ可能性も考えられる。また長女の方は長男の嫁になっているのであてにはできない。

—できれば次世代の負担にならず、なおかつ丁重に供養できるようなお墓がいいなぁ。

まさに納骨堂は、そんな私の考えにぴったりのお墓だった。

念のため成年後見人にも相談すると、後見業務は火葬費用、医療や介護の費用、公共料金の支払い等が完了すれば任務は終了だという。

「あと遺骨の引き取りについては、遺族が引き取りについての権利主張をしない限りは問題ありませんよ」

「あらまぁ、そうなんですね」

後見人の人と話せば話すほど、納骨堂一択なような気がしてきた。

結局私は納骨堂の使用契約を済ませ、千代ちゃんの遺骨を引き取り、納骨堂に遺骨を納めた。

「千代ちゃん。千代ちゃんの生き方は、自由すぎて周囲の理解を得られなかったかもしれないわね。早くに認知症になり、“若い頃の不摂生がたたった”と陰口を言われていることも知っているわ。でも私は、そんな千代ちゃんが大好きだから、こうやって一緒にいたいと思うのよ」

納骨堂の綺麗な室内で参拝をしながら、私はそっと千代ちゃんに心の中で話しかけてみる。参拝を終えてふと顔を上げると、さっきまで降っていたはずの雨はいつの間にか止んでおり、外から明るい太陽の光が大きな窓を通して室内に降り注いでいた。

文:三浦 マキ / 監修:吉川 美津子

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