終活物語

「夫婦」で納得のお墓探し

神奈川県在住の葉子さん(77歳)。3年前に夫を亡くし、夫のお墓を子供達二人と探していた。だがリゾート葬など流行りのものから子供たちの希望などを聞いていると、全く決まらない。そんな葉子さんが選んだ、“夫が喜んでくれそうなお墓”とは?

   

神奈川県に住む葉子(77歳)は、3年前に亡くなった夫のお墓を探していた。長女・聡子は埼玉に嫁いでおり、長男・徹(トオル)は結婚し、二人の子供と共に都内に住んでいる。

広島県出身の夫とは、生前から葬儀やお墓についていろいろ話をしていたが、結局お墓は決めることができないまま、亡くなってしまったのだった。

 

—葉子が考える理想のお墓—

夫が亡くなり、早3年。65歳を過ぎたあたりから何となく夫とお墓に関して話し合いはしていたものの、何も決まらぬまま、夫は他界してしまった。

「生前に、もっとちゃんと、話し合っておけば良かったわ・・・」

そう後悔しても、もう遅い。本腰を入れてお墓を探しているものの、中々良い所が見つかっていないのが現状だった。

「母さん、お墓どうするの?」

長男長女に急かされ、一生懸命考えてみる。

「自宅から近い所が良いから、三浦半島の海が見えるお墓とかどうかしら?」

しかし素直に希望を言ったものの、 “三浦半島は遠いし、都内のお墓が良い”とすぐに却下されてしまった。

お墓を継ぐのは、多分長男だろう。そう考えたら、三浦半島は交通の便が悪いのは否めない。しかも海が見えるお墓となると、最寄り駅からもバスなどを乗り継いでいく必要があり、車が必須となる。

「しかも週末は渋滞でまったく動きがとれなくなる可能性があるから、ちょっとなぁ・・・」

長男の指摘は、ごもっともだった。

 

“お寺の墓地”を希望します。

「そう言えば、前に“お寺の墓地が良い”って言ってなかった?」

娘の一言に、大きく頷く。そうなのだ。私の譲れない条件として、「お寺の墓地」というのがあった。

私も夫も特別信仰心が深いわけではないが、郊外型の霊園より、寺院内のお墓のほうが安心できるし、きちんと供養してもらえるような気がしていた。

「お父さんも私も、小さい時はお盆とお正月、あとお寺の行事のたびにお参りに行っていたし、お寺の墓地のほうが気持ちが安らぐのよねぇ」

ところが長男、長女は顔を見合わせて口々に何か言っている。

「寺院との付き合いが面倒じゃない?」

「寄付金とかもあるんじゃないの?」

嫌そうな顔をしている二人を見て落胆していると、さすがに申し訳ないと思ったのか、いちおう希望を考慮しようと、長男と長女はインターネット条件にあう墓地があるか23区内で探してみてくれた。

すると、都市部の多くは寺院墓地であり、宗教・宗派不問とうたう事業型の霊園はあまりないこともわかってきた。

「23区内で墓地を購入するとなると、寺院とのお付き合いが不可欠というわけか・・・」

それだけではなかった。問題は、購入費用にもあった。23区内で墓地を探すとなると、墓石を含めて少なくとも300万円以上はかかる。

—都市部から離れて安価な墓地にするか。23区内にこだわるか。

私たち家族は、決断を迫られていた。

 

注目を集める「リゾート葬」とは?

結局何も決まらぬまましばらく経った頃。新聞をめくっていると、とある記事が目に付いた。

「リゾート葬?」

その記事には、三浦半島の霊園内に墓地を購入した人のエピソードが載っており、“お墓参りがてらリゾート気分を味わえる”とのコメントが寄せられていた。また、巷では、観光を兼ねてお墓参りができるような場所にお墓を持つことを「リゾート葬」というらしく、“にわかに注目を集めている”とも書いてある。

「あら、いいじゃない!」

早速長男に電話し、リゾート葬の話を持ちかけてみた。

「このあたりのお墓は今売れ筋みたいで、今買っておくとよいかなと思ったのよ」

しかし“ピッタリのお墓が見つかった”と思って既に浮かれていた私とは対照的に、長男はとても冷静だ。

「母さん。ちゃんと調べてみた?そもそもお墓は使用権を購入するのであって、所有権を得るわけではないんだよ。人に譲ったり貸したりすることはできないし、もちろん転売もできない。不要になったら、使用権がなくなるだけなんだよ?」

「そ、そうなの?」

長男の話に、浮かれていた考えは消失していく。そしてやはり、長男長女の考えは変わらなさそうだ。

「リゾート葬の考え方は良いとは思うけど、やっぱり僕も姉さんも近い場所の方が有難いなぁ。年に数回程度のお墓参りではなく、頻繁に行きたいんだよ」

 

—長男・徹から見た理想のお墓—

母が本腰を入れてお墓を探し始めてから早3年。父が亡くなり、母なりに一生懸命なのは分かっているが、中々母の希望と、僕たち子供の理想がマッチするお墓が見つかっていなかった。

そんな中、ある日曜日の朝のことだった。新聞広告を見ていると、とあるチラシで手が止まる。

「あれ?また納骨堂、か・・・」

最近、自分がお墓に注視しているからかどうなのか分からないが、週末になるとよく納骨堂のチラシが入っていることが気になっていた。少し前まではせいぜい1件くらいだったが、最近は3~4件入っている気がする。

どれもカードかざすと遺骨が目の前に出てくる機械式の納骨堂で、費用はだいたい100万円前後。しかも、それぞれお寺の中にあると書いてある。

「23区で寺院内の墓地・・・母さんの希望を通すなら、納骨堂が適当かも」

何かがピンと来て、早速母と姉を誘い、見学へ行くことにした。

 

予算内で買えるお墓「納骨堂」という選択

最初に見学へ行ったのは、CMでもよく知られている供養関連業者が販売を手掛けている納骨堂だった。最寄駅から徒歩数分で、立地は良い。しかも1区画100万円以下で購入でき、家のお墓として子々孫々次いでいくことができるだけでなく、継ぐ人がいなくなったらお寺の方で永代供養もしてくれるという。

「しかも、ここはスタッフの方の感じも良いじゃない」

上機嫌の姉とは裏腹に、母には気になる点があったようだ。

「販売業者の方は一生懸命勧めているけれど、今後お付き合いをしていくのはお寺だし、大丈夫かしら。あと・・・設置されている墓石が好みでないのは仕方ないとしても、中に入れる文字は、もう少し自由にしたいわ」

この納骨堂では、それぞれの厨子(納骨室)に設置する表札にあたるプレートの文字や柄に制限があった。

「ここもダメか・・・」

気を取り直し、僕たちは別の場所へ見学に行ってみることにした。

2軒目も駅から徒歩数分だった。納骨堂は立地で勝負というだけあって、不便な所はあまりないようだ。

こちらも前回の納骨堂のように販売会社が堂内を案内してくれたのだが、お寺としても、座禅会やセミナーなど、いろいろ行っているようで、前回よりは身近に感じられる。

しかもこちらは厨子のプレートに入れる文字の字体も豊富で、絵も入れることができる。費用も1区画80万円程度とお得な感じがした。

「檀家としてのお付き合いはどの程度する必要があるのでしょうか」

姉がおそるおそる尋ねると、素晴らしい答えが返ってきた。

「納骨堂契約者の場合、檀家になるわけではないんですよ」

つまり、寺院を支えていくための義務は生じないという意味らしい。そうはいっても、法要等を通じて寺院とかかわりを持ち、日々供養の空間にいることには違いはない。

「母さん、どうかな?」

「ここなら自分が将来入ることをイメージできるわ!実は最初は、機械式の納骨堂はあまり良い印象を持っていなかったけれど、想像していたよりも無機質な感じではないし、草むしりや清掃など不要というのは魅力的よね。しかも高齢になるとお墓参りも億劫になるから、なんといっても便利なところが一番だわ」

目をキラキラと輝かせている母。納骨堂に対する印象も大きく変わったようだ。

 

—数カ月後—

僕たちは父さんの納骨を無事に済ませることができた。都市部なので、納骨や法要後の会食場所選びも困らない。

「三浦半島の自宅からここまで出てくるのは大変だけど、これで貴方達に安心して供養を任せることができるわね」

そう話す母さんは、とても穏やかな顔をしていた。

文:三浦 マキ / 監修:吉川 美津子

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