身内といえど、お墓の中に埋葬されている遺骨を勝手に取り出すことはできません。先祖の遺骨を新しいお墓へと移す際は、「改葬許可証」という書類が必須となります。
墓じまいや、お墓の移設を考えている方は、必ず知っておきたい手続きですので、きちんと把握して適切に行えるよう準備しましょう。
ここでは、改葬許可証を入手するための手順と、遺骨の移動に関する手続きについてご紹介します。
目次
「改葬」の意味
改葬とは、簡単に言えば「お墓の引っ越し」のことを指します。具体的には、今のお墓にある遺骨を取り出し、他の寺院や霊園、墓地、納骨堂にうつして供養を続けることを指します。
改葬と同じように用いられることも多い、「墓じまい」という言葉は、実は意味が異なります。墓じまいは、お墓を撤去して更地に戻し、その使用権を返還することを指します。改葬の目的が墓じまいであることも多いことや、改葬にともない墓じまいを行うこととなることから、同じような意味合いで使われているのでしょう。
厳密に言えば、墓じまいは改葬の流れに含まれる一部の出来事と言えます。
改葬許可証とは
改葬許可証は、改葬で必ず必要になる書類で、その名前のとおり「改葬を許可する証明書」です。必要になるのは、以下の2つのケースでしょう。
・お墓の解体、撤去を石材店に依頼するとき
・お墓から遺骨を取り出すとき
墓じまいを兼ねて改葬するときは、お墓の解体や撤去工事を石材店に依頼することとなります。この工事には、改葬許可証が不可欠であり、当日までに手元にないと着工できません。お墓の撤去や解体をしない場合でも、遺骨を取り出す時には改葬許可証が必要です。
改葬許可証は遺骨の数に応じて必要となる
墓じまいで先祖の遺骨をすべて取り出して改葬する場合、同じ区画にあるお墓の遺骨なら1枚の改葬許可証で済むと誤解されることがあります。しかし、実際はそうではありません。例えば、お墓に先祖の遺骨が10つあれば、10通の改葬許可証が必要となります。
改葬許可証の発行までには、いくつかの書類の準備も必要となり、遺骨の数が増えれば増えるほど準備も大変になります。慌ててしまわないように、早いうちに準備しておきましょう。
改葬許可証の発行に必要な3つの書類
改葬許可証の発行は、そう難しい手続きではありませんが、3つの書類を提出しなければなりません。この3つの書類は、各市区町村のホームページからダウンロードできる仕組みになっていることも多いですが、書類の名称や記載内容は自治体によって異なる部分もあるため、心配な方は役場の窓口で聞きながら揃えると安心です。
改葬許可申請書
改葬許可を得るための申請書です。一般的には、以下の情報を記載します。
・死亡者の情報(氏名、本籍、住所、性別、死亡年月日、埋葬場所もしくは火葬場所とその年月日、改葬の理由、改葬の場所)
・申請者の情報(氏名、住所、死亡者との続柄など)
死亡者の情報については、基本的には管理者に聞けば分かることが多いですが、それでも古いお墓の場合は情報がなくお墓の石から得られる情報も少ないなど、申請書のすべてを埋めることが難しいかもしれません。管理者に聞いても分からない部分については、「不詳」と書いても認められることも多いです。役場で調べて分かる部分は修正をするよう言われることもあるでしょう。
受入証明書
受入証明書は、引っ越し先のお墓の管理者が発行する書類となります。したがって、改葬許可証を発行する時には、既に新しいお墓が決定し、受け入れが確定している必要があるということです。この書類によって、遺骨の引っ越し先が決まっていることの証明となります。
この書類には、引っ越し先の墓地の管理者の印鑑が必要になってくるため、急を要して迷惑をかけないように早めの手配をおすすめします。
埋葬許可証
埋葬許可証は、現在遺骨のある墓地の管理者が、間違いなく納骨されていることを証明するための書類です。これには、今の墓地の管理者の署名捺印が必要となります。埋葬許可証は、自治体によっては改葬許可申請書と兼用になっていることもあるため、確認しておきましょう。
改葬許可証を持たずに遺骨を取り出すとどうなる?
もし、改葬許可証を入手せずに遺骨を取り出し改葬しようとした場合、どのような罰則があるのかご存じですか?
思わぬトラブルに発展させないために、その必要性をよく理解しておきましょう。
罰金・拘留の可能性がある
改葬時の改葬許可証は、「墓地、埋葬等に関する法律」に基づいて発行されているものです。この法律では、改葬する者は、市区町村の許可を受けなければならないと定められています。この市区町村の許可が、改葬許可証ということです。
もし、無許可で改葬をした場合、「1,000万円以下の罰金または拘留もしくは科料」と規定されています。そして、刑法第189条では墳墓発掘に対し懲役2年以下の罰則、刑法191条では遺骨の遺棄や損壊に対し3ヶ月以上5年以下の懲役というルールもあります。身内のお墓だから問題ない、と軽く考えてしまうのは危険です。
なお、2011年3月の東日本大震災では、多くの被害を受けました。そんな中、倒壊してしまったお墓の数も尋常ではなかったようです。純粋に遺骨を守ろうとして、お墓の中から勝手に遺骨を持ち出した人も少なくなかったと聞きます。状況が状況だけに、遺骨を持ち出したことで逮捕された方はいなかったようですが、だからといって法律上は許されることではありません。遺骨を無許可で取り出したという人の話を聞いても、鵜呑みにしないようにしましょう。
改葬許可証の申請から改葬までの手続きの流れ
ここからは、改葬許可証を申請して実際に改葬するまでの流れを整理し、手順に沿って詳しくご紹介します。
新しい納骨先を決め受入証明書を発行してもらう
まずは、お墓の引っ越し先を決める必要があります。候補を絞り、希望の場所を見つけたら、しっかりと説明を受けてから契約しましょう。改葬許可証の発行に必要な、受入証明書を書いてもらうこととなりますが、場所によっては墓所使用契約書がその代わりとして認められることもあります。受入証明書の発行には、費用がかかる可能性もあるため、その点についても確認されることをおすすめします。
改葬許可申請書を入手する
改葬許可申請書は、引っ越し前のお墓のある土地の市区町村役場から入手します。申告者の住所がお墓のある土地と違う地域にある場合は注意が必要です。多くの場合、市町村のホームページからデータをダウンロードできますが、やり方が分からなければ窓口で受けとることもできます。
埋葬許可証を入手する
埋葬許可証は、引っ越し前のお墓がある墓地管理者から発行してもらいます。お墓の管理者が分からない場合は、そのお墓の市区町村役場で尋ねることが可能です。基本的に、寺院墓地の管理者はその寺院の住職となります。民営墓地の場合は、石材店などの民間企業の責任者が多いでしょう。そして、公営墓地の場合は、自治体が経営主体となり、管理者は自治体の職員になることが多いです。
改葬許可証を発行してもらう
必要な書類をすべて揃えたら、引っ越し前の遺骨がある自治体に提出し、改葬許可証を発行してもらいましょう。改葬許可証は、書類の提出をしてすぐに発行されるわけではありません。通常、3日~1週間程度はかかる傾向にあります。土日や祝日を含めると、もっと時間がかかる可能性もあるため、余裕をもって準備することをおすすめします。
自治体によっては、必要書類の申請や交付を郵送で行うことも可能です。ただ、発行手数料を定額小為替で準備するなど、手間もかかるため、その点についても問い合わせて不備のないように進めていくことが大切です。
改葬手数料は、自治体ごとに異なります。無料で発行してくれるところもありますが、300円程度かかる自治体も。遺骨1つごとに1枚の改葬許可証が必要となるため、必要な枚数によって手数料も変わってきます。
引っ越し前の遺骨がある墓地管理者に提示する
改葬許可証は、まず現在(引っ越し前)の遺骨がある墓地の管理者へ提示して、お墓の解体を進めていきます。墓じまいをする場合、墓石を解体して更地に戻し、返還するという流れになります。お墓の解体に伴い、閉眼供養をお願いする場合は、あらかじめ住職にお願いしておく必要があります。閉眼供養は、石碑に宿るとされる魂を抜くための儀式です。急なお願いにならないように注意しましょう。
引っ越し先の墓地管理者に提示する
遺骨を取り出すことができたら、今度は新しいお墓の管理者に改葬許可証を提示します。開眼供養、納骨式の法要を依頼する場合は、あらかじめお願いしておきましょう。なお、納骨時には、一度遺骨を骨壺から取り出して、洗浄を行うのが通例です。長い間骨壺の中に眠っていた遺骨は、カビや虫の発生などの可能性もあるためです。
改葬や改葬許可証についての知っておきたい知識
ここからは、改葬や改葬許可証について知っておくと便利な豆知識をご紹介します。
改葬許可証に有効期限はあるの?
改葬許可証の有効期限はありません。しかし、引っ越し先のお墓の使用契約期限などが記載されている場合は注意が必要です。
改葬に補助金制度はあるの?
自治体や改葬先によっては、補助金が設けられている場合もあります。例えば、墓石の撤去費用の一部や、改葬先の使用料の還付、合葬埋葬施設の無料化などが代表的です。必ずしも、お墓のある自治体等に補助金があるとは限りませんが、気になる方は確認してみましょう。
近年、放置されてしまうお墓が増加傾向にあり、課題としている自治体も多いです。今現在は補助金がなくても、今後、対策として実施される可能性もあるでしょう。
土葬からの改葬はどうなる?
とても古いお墓などは、土葬で埋葬されていることもあります。この場合、火葬して埋葬された遺骨とは手順が変わってくるため注意が必要です。基本的に、土葬された遺骨は、洗浄と火葬を行ってから改葬しなければなりません。なぜなら、納骨時は、土葬の受入れをせずに火葬された遺骨でなければならないというルールがあるからです。あらかじめ、土葬からの改葬に対応できるかどうかを確認し、遺骨の洗浄を行ってくれる専門業者を紹介してもらうなど、手順を確認することをおすすめします。
とても古い土葬のお墓はどうする?
先祖代々の遺骨を改葬する場合、その家の歴史が長ければ長いほど、古いお墓もあるでしょう。高度経済成長により人口が急激に増えた時代よりも前に亡くなった方のお墓は、土葬して自然に還すのが一般的でした。
土葬されたご遺体は、時間をかけて骨だけになり、その骨も100年もすれば土に還るとされています。そのため、とても古いお墓の場合、遺骨がすでに自然に還りなくなっていることも珍しくありません。遺骨がない場合は、改葬の手続きは不要です。遺骨の代わりに、そこにあった土を骨壺に入れることも多いです。
ただ、古いお墓の遺骨が土にすべて還っているかどうかは、私たちでは確認することができないため、土を掘ってみないと分かりません。改葬を考えている場合は、まずは行政の窓口で相談することをおすすめします。
希望の改葬先に先祖代々の遺骨をすべて納められないときは?
墓じまいをして改葬する場合、先祖代々の遺骨すべてを新しいお墓へとうつすことになります。想像以上に遺骨の数が多く、希望する改葬先にすべて納められない場合、どのような選択肢があるでしょうか。
これは、個別に設けられた遺骨の収蔵スペースを利用する場合に考えられるトラブルです。永代供養できる寺院や霊園、納骨堂といった場所には、他のご遺骨とともに1つの大きなお墓に収蔵される合祀墓と、それぞれの骨壺に入った状態で収蔵されるタイプとがあります。合祀墓の場合、遺骨の数が多くて困ることは少ないですが、個人や家族ごとに収蔵スペースを確保する場合は数が多すぎて入りきらないという問題も出てくるかもしれません。
この場合、遺骨を粉骨して体積を減らす方法や、改葬先を複数用意して別々の場所に埋葬するという選択肢が考えられます。合祀墓に埋葬する場合は、他の遺骨と混ざってしまうため、あとで取り出すことができません。家族や親族でよく話し合い、良い方法を検討されることをおすすめします。
改葬をスムーズに行うためのポイント
改葬や墓じまいは、誰もが経験するものではなく、慣れない手続きに戸惑ったり悩んだりすることもあるでしょう。
しかし、改葬では事前に準備をして整えておくことが多いため、できるだけスムーズに物事がすすむよう段取りしながら動きましょう。
家族や親族とよく話し合っておく
お墓に対する想いは、人それぞれ異なります。実際、墓じまいや改葬を勝手に行い、家族・親族間でトラブルになるケースもあります。最近はお墓の管理が心配で永代供養できる場所に改葬する方も増えてきているとはいえ、従来のお墓のままが良いと感じる人もいるのです。
改葬をして、遺骨を移動させる前に、家族や親族とよく話し合って全員が納得するのが理想的です。できるだけ、事後報告のように伝えるのではなく、こちらの事情や希望を話しつつも相手の言い分に耳を傾け確認しましょう。
菩提寺がある場合は住職にも相談を
菩提寺がある場合、自分が生まれる前からずっとそのお寺が先祖を供養してきたという歴史があるでしょう。改葬については、その感謝を伝えることを忘れずに、やはり事後報告ではなく相談という形で話を持ちかけるとお互いに気持ちよく話をすすめやすくなります。
全体のスケジュールを把握して前もって動く
改葬は、許可証の入手を含めて、時間のかかる準備も多いです。行き当たりばったりでは、必要な準備ができておらず手続きがスムーズに行えないでしょう。あらかじめ、ここでご紹介した手順を踏まえて、早めに段取りしておくことをおすすめします。
分からないことは早めに聞く
慣れない手続きで迷うこともあるでしょう。不明なことがあれば、行政の窓口や引っ越し先の寺院、霊園、納骨堂などに聞きながら、着実に行っていきましょう。
改葬許可証がないと遺骨の移動許可は得られない
改葬では、必ず改葬許可証が必要になります。書類の発行には準備も必要で、1日で揃えるのはなかなか難しいと言えるでしょう。
墓じまいや改葬を予定している方は、スケジュールを把握して早めに準備に取りかかることをおすすめします。